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時代の風:どこから、そしてどこへ

Ⅰアントレプレナーシップ&グローバリゼーション

時代の風:どこから、そしてどこへ
1990年代に米国シリコンバレーにてインド人起業家によって設立された起業家育成のための非営利組織、TiE(The Indus Entrepreneurs),2009年このほど、TiEは非英語圏では初となる東京支部設立を記念し、起業家、有識者を集めてシンポジウムを開催。真のグローバル化が急務な日本社会、そして何よりもこれから企業を目指す人々にとって、大いに刺激となる場となった。
起業家による真の価値創造をグローバルに支援

1.起業家による価値創造:情熱を持った人をつなげ新たな価値を

人々の生活を変えるためのハード、ソフト、あるいは概念的な枠組みを創造することこそ、価値。価値を創造する源は情熱であり、情熱を持って起業し、価値を創造すれば自動的に富は付いてくる。
起業家精神は世界中に散在している。自分のアイディアを基に起業したいと考える人はどの国のどの企業にも1%はいるだろう。そういう情熱を持った人たちをつなげ、ノウハウの高い人たちが集結すれば、その価値が創造される可能性が大きく広がる。
我々は起業家による真の価値創造を支援することを目的とする組織だ。起業家精神を広め、起業家を成長・維持させていくことを目的に、指導・教育・グローバルな連携支援といった様々な戦略を展開している。我々は関心度の高い案件をグループ化し、最新のITシステムを駆使して、世界中の拠点と連携させている。これからの価値創造にはグローバルな視点は欠かせない。さらにいえば、大きな市場を担うことが重要だ。自分の考えを生かし、新たなものを生み出せる余地が大きいからだ。こうしたマーケットはまだまだたくさんあると考えている。

2.経済危機とアントレプレナーシップ:今こそ起業へ、大きな一歩を踏み出そう

起業活動はリスクが高く、失敗から多くを学び進化していく。インドでも90年代までは起業家が少なかったが、多くのインド出身者がシリコンバレーで成功し始めると触発され、起業家精神に充ち溢れる国に変わった。
大切なことは、みんなと同じ方向に行くのではなく、新しいことに挑戦し自分のやり方を押し通すこと。日本でもかつてはウォークマンのように、世界を席巻したオリジナリティー溢れるアイディアがあった。しかし今ではそれらは日本以外から発信されている。
日本社会は失敗を恐れる風潮から早々と脱し、失敗に寛容で柔軟な発想を生み出す社会への変革が求められている時だと思う。それまでの環境に甘んじず、変革に即応していくことが大切だ。
どんな国においても、起業家の遺伝子は平均的に散在しているものだ。起業家の家系だから起業家のDNAを持っているとは限らない。起業家になりたいと思うことで、起業への10%を踏み出すのだ。それは最初の、しかし大きな一歩だ。ほとんどの人はその一歩を踏み出さずに終わる。そのステップを踏んで初めて企業の意義と素晴らしさがわかる。失うモノの少ない不景気の今こそ、起業のチャンスと考える。

3.社会的アントレプレナーシップ:

1)社会をリードし変革
だれがアントレプレナーで、だれが社会的アントレプレナーだろうか。MSのビルゲイツ会長は社会的アントレプレナーだろうか。彼は企業経営の傍らHIVの問題でも戦力的に活動している。タタ財閥のジャムセトジー・タタはどうだろうか。彼はインド市民の生活向上のために起業し、インド経済の発展に貢献した。彼らは社会的アントレプレナーだ。ではこの二つを分ける境界線はどこにあるのだろうか。社会の構造を変えるという点がやはり、社会的アントレプレナーシップの根幹に違いない。
社会構造を変えたという点では、年率25%を超える成長を誇るバルティ・エアテル携帯電話事業者も見逃がせない。農村市場に注目し、最も貧しい農民層の底上げに貢献している。乳製品大手アムールの創業者も社会的アントレプレナーシップの実践者の一人だろう。日本の生活協同組合に似た仕組みを立ち上げ、農民から牛乳を買って、それを加工して、世界最大級の乳製品企業に成長させた。つまり、企業を興し、人を雇って、事業を通じて人々に刺激を与えて、社会をリードし、変革していく者こそ、社会的アントレプレナーと呼ぶにふさわしい。
2)企業的手法で貢献
インドでは全人口の7割、約7億人が農村社会に住んでいる。この農村社会の活力を引き出すことが取りも直さずインド経済全体の活力につながるだろう。実は、農村社会の村おこしに世界銀行もボトム・オブ・セオリーと名づけて取り組んでいる。これは所得ピラミッドにおける最下層の経済力の底上げを狙うものである。こうした流れの中で注目されているのが社会的アントレプレナーシップである。企業活動としての手法を使いながら社会貢献事業を推し進めていこうという考えだ。
日用品メーカーであるユニリーバのインド現地法人ヒンドスタン・ユニリーバの活動は、社会的アントレプレナーシップの好例である。同社は農村社会を消費マーケットとして位置づけ、村々の女性リーダーを販売員として採用・教育して、せっけんやシャンプーを使うことで病気を予防できると訴え続けた。その結果、インドに「清潔」という概念を広めるとともに、市場開拓に成功して大きなビジネスに成長させた。たんに利潤追求だけでなく、チャリティーでもない一つのビジネスの形を創造したわけだ。社会的アントレプレナーシップがいんどい経済に与える影響は決して小さくない。
3)日本におけるアントレプレナーシップ環境:自ら新しいルールを
この1年間というか、半年間のうちに世の中がものすごい勢いで変わった。少し前まで常識と思われてきたことがすっかり覆されてしまった。これまでベンチャー企業はルールブレーカーでなければならないと言ってきた。しかし、そのルールが壊れてしまった今、もはやルールを破る必要がなくなった。ベンチャー企業は自らルールを作っていけばいいのである。今のような変革時は新しく生まれてくる気運にあふれており、多くの起業家もチャンスをもたらすだろう。
こうした中、TiE東京支部が設立された。今回の世界的金融危機で比較的痛手が小さかったのは、日本とインドくらいではないか。そのうえ、両国は補完関係にある。日本がインドのIT,特にソフトウェア力を求める一方で、インドは日本の持つ技術、特に製造技術を求めている。まさしく今こそ両国が手を結ぶ好機と言える。今後はTiEのサポートの下で多くのアントプレナーが育ち、新しいバリュー、さらに新しい日本を創造していくことが期待される。

Ⅱ日本のものづくりを支える人材の今後

技能伝承ではなく。技・脳・伝・進を!
中村 肇 厚生労働省「ものづくり人材育成研究会」委員、三菱総合研究所主任研究員
技能伝承問題などで話題になっているものづくり業界。雇用延長などを導入して一時的にしのいでいるが、数年後にはまた同じような状況が予想され不安も残る。

1.ものづくりは世界で勝てる分野

Q:かつては「国内に生産現場は不要」と言われた時期もありましたが。
A:1990年代前半、急速な円高によって、アジアへの工場移転が起こり、「モノづくりの空洞化」、さらには「モノづくり不要論」が展開された時期もあった。しかし90年代中ごろから、ものづくりやそれを支える熟練技能への見直しの機運が高まり、21世紀に入って、かなり復権した感がある。
背景には、円高がある程度の水準で止まったことや、開発部門と生産部門が離れていては、高度なモノづくりができないことが明らかとなってきたこと。また、資源のない日本にとっては21世紀においても、ものづくりが付加価値を生む重要な産業であることが再認識されたことなどがある。
Q:「技能伝承」に代えて「技・脳・伝・進」を提唱していると聞きました。
A:生産現場に関して、ものづくりが業界で頭を悩ましているのが、団塊世代の大量退職に伴う技能伝承の問題です。今後、日本のモノづくり業界は、今ある技能をそのまま伝えるだけ、手先の器用さをこなすだけでは、厳しい競争に勝ち残っていけない。頭を使って考えていく力を持ち、単に先達の技術を受け継ぐのではなく、受けたものを受け継いだ人自身が進化させて、創意工夫をしていかなければならない。
そのように考えて、その言葉を提唱した。かつて三菱重工業神戸造船所では、技能者を「技脳者」と呼んでいたことがヒント。
2004年3月の労働者派遣法の改正により、製造現場への派遣が解禁されて以降、生産現場での外部労働力の活用が急速に進みました。そのような中で技能伝承に関しては、対策をきちんと考える企業とそうでない企業に二分される。
きちんと考える企業は、外部労働力の活用を積極的に進めつつも、自社のモノづくりの根幹に部分については、正社員を少数精鋭で配置して、彼らを次代のモノ作り現場の中核となるべき人材と位置付けた上で育成を図っている。このような企業は、技術伝承の面でもそれほど問題はない。問題となるのは、コスト削減を主眼に外部労働力の活用を進めるうちに、気が付いたら自社のモノづくりの根幹の部分まで外部労働力にゆだねてしまっていた、という企業である。

2.「生産技術」が強さの要

Q:日本のモノづくりの強さは。
A:これまでの日本のモノづくりの強さの秘訣の一つは、設計・開発と生産の両部門の連携がうまく取れていたことがあげられる。生産現場の海外移転や設計・生産プロセスのデジタル化の進展により、このような強みは一時期揺らぎかけたが、今、再構築へ向けた取り組みが始まっている。
さらにこれら両部門の連携の要となっていたのが、「生産技術」や「生産管理」などの部門。いずれも「生産の仕方」を考える部門であり、どのモノづくり企業でも非常に重視している部門だが、学生から人気がないのは残念だ。
また、ものづくりは一社単独で行うものではない。「素材生産」「加工」「部品生産」「組立」といった一連の工程を、中小企業から大企業に至るまで多くの企業が担っており、日本ではそれぞれの工程を担う企業が、高い品質で自らの責任を果たすからこそ、良いものが出来上がってくる。これらのライダをつなぐことができる人材がいたことも見逃がせない。
Q:最近では技術者の中途採用も盛んでは。
A:開発や生産拠点の海外進出が加速した一方で、現地人材はまだ十分には育っていない。そのため、日本人技術者が海外までカバーせざるを得ず、絶対数が足りない。それ以上に、技術が高度化・複合化し、その企業がそれまでコアとしてきた技術分野だけでは足りなくなり、新分野の技術者、しかも即戦力の人材を確保することが、競争に生き残っていくために必要になってきたことも挙げられる。
ある自動車メーカーでは電機メーカー並に電機系の中途技術者を採っているし、あるオフィス機器メーカーでは、新しい発想を求めて釣り具メーカー出身者を採用した例もある。その人が今までとは違った分野の知識を貪欲に吸収していこうとする意欲さえ持っていれば、同じ業界内での転職だけでなく、むしろ他業界での経験も企業側は積極的に求めているといえる。こういった異分野の融合によって、ものづくりがさらに高度化されていけば、日本のものづくり業界は世界でまだまだ十分に勝てる分野と言える。

3.技術系正社員に求められている最も重要な知識・技能(%) 2008年版ものづくり白書

複数の技術に関する幅広い知識――――――――――――――――――22%
生産の最適化のための生産技術――――――――――――――――18
特定の技術に関する高度な専門知識―――――――――――――16
ニーズ調査・分析などを通じて
ユーザーニーズを的確に把握し、
それを製品設計化する能力―――――――――――8
ユーザーの業務やニーズを理解し、
コミュニケーション、プレゼンテーションできる能力ー5
革新的技術を創造していく能力――――――――5
工程管理に関する知識―――――――――――4

Ⅲエグゼクティブ系人材の転職トレンド

「構想力」や「リーダーシップ」が求められる資質

総務省統計局の「労働力調査」によると、就業者のうち転職経験者の比率を示す転職率は、35-44歳の層がここ15年ほどで男女ともに約1.5倍の伸びとなっている。実際は、転職率そのものは若年層の方が高いが、キャリアを積んだこの年齢層は管理職への転職が目立つ。
企業が管理職クラスの人材を求める背景には、1自社の成長を加速させるため 2後継者不在による事業継承の問題を解決するため 3企業や事業を再生するため 4新規事業を立ち上げるため の4つに分類される。
厚生労働省所管の労働政策研究・研修機構の2008年3月、「ユースフル労働統計2008年版」でも「職種別転換率を時系列(92年、97年、02年)でみると、管理的職種の転職率が高まっている。一般的に企業は景気低迷時期には募集人数を減らしたり、採用をストップしたりする。しかし、景気動向に左右されないのが管理職クラスの転職の特徴だ。
重要なのは、構想力やリーダーシップ。これらが備わっていれば、管理職として業務を遂行する能力があると見ていい。加えてリスクテーキングな能力があることも大事。当該業務経験の有無は参考にするが絶対的なものではない。要するに業種を超えてマネジメント能力が際立っているか否かが成否を決めるポイントだ。又企業と転職者との間の価値観の相性(Chemistry)もとても大事な要素だ。
30代後半―40代の転職者には、プレーイングマネジャーとしての経験が必要にあるが、50代前半になるとその経験にプラスして、総合力(人柄、性格、変化への洞察力、先見性、人に対する心情)が求められる。

Ⅳ企業の人的投資:「組織の能力」が成果を左右

平野雅章 早稲田大学教授
・組織の能力は構成員の能力とは別物
・組織能力が低いと、人的投資がムダに
・経営者のリーダーシップで組織再構築を
近年、非正規従業員の増加や成果主義の導入、M&Aに伴う突然のリストラ・移籍など、伝統的な企業と人との関係が大きく揺らいでいる。こうした環境の変化を踏まえれば、企業の人的投資のリターンがどうなっているか実態を把握する重要性がある。
ここでは組織を「意思検定とコミュニケーションのためのルールや仕組み」と定義する。組織を構成する組織メンバーは組織の一部ではなく、組織とは組織メンバーが入れ替わっても(短期的には)変化しないということになる。したがって、組織の優秀性は組織メンバーの能力とは別物である。すなわち、企業の能力=組織メンバーの資質*組織の優秀さ である。
ここで、組織メンバーの資質は、知力・スキル・体力・意欲・倫理観・リーダーシップなどであり、一方、意思決定マシンとして組織の優秀さは「組織IQ」という指標で測定する。すると、企業能力の面積を向上させるには、組織メンバー(従業員)の資質を向上させる方法と組織IQを向上させる方法とがあることになる。
組織IQは、シリコンバレーの新興企業を対象とする企業評価方法で、文字通り組織の知能指数を測定するものだ。具体的には、1外部情報感度 2内部情報流通 3効果的な意思決定機構 4組織フォーカス(決定方針に組織全体が経営資源と努力を集中するレベル) 5継続的革新――の5つの面について調べる。組織IQと企業業績との相関の強さはたびたび実証され、新興企業以外の企業でも有効性は確認されている。
2000年度から05年度までの経済産業省「情報処理実態調査」の上場企業調査では、まず総資産人件費率(機械やITでなく人手による割合に関連)と収益性の関係をみると、製造業の同じ業種の中でも総資産人件費率の高い企業群の方が収益性は高いという正の関係が見られた。明らかにこれは「機械化・IT化による省力化が収益につながる」という通念に反する。
そこで、売上高人件費率と収益性との関係も見ると、売上高人件費率の高い企業群の方が収益性は高いという結果になった。
したがって、人件費率が高いと高収益になるのは、全般的傾向であることが推測され、必ずしも高収益企業がバランスシートを圧縮した結果として総資産人件費率が相対的に高くなっているとはいいきれない。むしろ、研究開発、特殊な製造過程、顧客密着の営業など付加価値を生むプロセスに人を配置していることの結果と考えられる。
次に、総資産人件費率の高い企業群と低い企業群をさらにそれぞれ組織IQの高いサブグループと組織IQの低いサブグループとに二分して合計4つの企業群に対して収益性を比較した。
組織IQの高い企業群は全体として収益性が高いが、総資産人件費率を高めると収益性は大きく増加している。これに対して組織IQの低い企業群の場合、前提として収益性が低いだけでなく、総資産人件費率を高めると収益性はマイナスになってしまう。高い総資産人件費率から高い収益性を得るためには、組織IQが高くなければならず、両者の間にこうした関係性が生まれるのは偶然ではない。
この分析結果が示唆するのは、付加価値を生むことを狙って研究開発、特殊な製造過程、顧客密着などのプロセスに多くの人を投入してみても、実際に高収益に結び付けられるのは組織IQが高い企業のみで、組織IQの低い企業の場合には、増加した人件費がそのままコスト増に直結して収益が悪化しているということである。
日本企業では、企業の能力を向上させるための標準的なやり方は、「人に対する投資」で、困難や挑戦に直面すると、より多くの人を投入したり、より優秀な人を投入したり、教育訓練などにより従業員の資質を向上させようとする。これは企業能力を拡張させようとする努力である。ただし企業能力を向上させるためには組織IQも高めなければならない。それには、組織投資をしなければならないが、まず前提条件として不可欠なのは、「環境変化を素早く深く知覚し、戦略を効率的・効果的にオペレーションにつなげて、正確なフィードバンクを得られるような知的適組織を作る」という企業経営者の覚悟とリーダーシップである。
こうした強力なトップダウン・アプローチにより、組織IQスコアを、企業が置かれた産業や環境の特性と考え合わせ、組織を再設計する。人間の情報処理能力はこの百年間に大幅に変わっていないものと思われるが、情報量は劇的に増加している。情報処理負荷が情報処理能力を超えてしまうと、意思検定が遅くなったり、間違えが発生しやすくなったりする。そこで、組織メンバーの情報処理負荷が情報処理能力を超えてしまわないように、組織設計をしていくことがポイントとなる。
現在の日本企業をみると、人的投資はどの企業も長期間やって来ているので、その限界リターンは逓減しつつあり、優秀とされる労働力を必ずしも十分に生かしきっているとは言えない。優秀な人々の努力が企業内で空回りして活かされず、もがいているような感じさえある。人件費を削ることが長期的な収益性につながらないことは、この分析を待つまでもなく明らかであろうが、本分析結果が指し示す方向は、すぐれた(組織IQの高い)組織による解決である。
組織メンバーがその資質を活かせるような優れた組織(仕組みとルール)の構築こそは企業経営者の専管事項であり、優れたリーダーは組織構築にも長けている。留意すべきは同じデータを使った分析によると、人件費率と組織IQとの間には全く相関関係が無く、人件費率を高めても組織IQは向上しないということである。すなわち、人的投資とは独立に組織投資を行い、組織IQを高めることによって、人的投資が活きるようになるのである。

Ⅴ人間の賢明さ・弱さを直視:

利己心、「正義」で統御、アダムスミスの洞察、認識新たに

堂目卓生大阪大学教授
山積する政策課題に取り組むうえで大切なのは、経済学の理論の応用に加え、その深奥にある思想性を組みとることである。

1.光明と暗黒の時代に

18世の英国社会は、光と闇の両面を持っていた。名誉革命以後、国王に対する議会の発言力は強まり、政治の民主化が進んでいた。のちに産業革命と呼ばれる生産技術上の大革新が起こりつつあった。英国は対仏戦争の勝利し、北米貿易の利権を手中に収めた。しかし、英国は戦争のために大量の国債を発行し、消費税を中心に本国の国民に重税を課していた。さらに防衛費を負担していない北米植民地に課税しようとして、植民地の反発を招き、1775年ついに独立戦争が勃発した。
英国議会は独立戦争の対応を巡って紛糾し、有効な和解案を提示できないまま、同朋国民との戦争に突入した。世間には、大英帝国の衰退を憂慮する絶望論と、北米に理想的な市民社会ができることを期待する熱狂論が渦巻いた。こうした状況下でアダムスミスは国富論を刊行し、そこで彼は分業、市場、成長、貿易などに関する新しい経済理論を提示したのである。

2.公平な観察者の判断に基づいて

従来の解釈で言われるように、確かにスミスは、個人が利己心に基づき自由に経済活動を行った良いとした。しかし実際は重要な留保条件を付けていた。個人の経済活動は正義(他人の生命・身体・財産・名誉を侵さないこと)によって制御されなければならないのだ、と。一方、政府は防衛、司法及び若干の公共事業を行う以外、経済に介入してはならなかった。個人と政府が、これらの原則を守ることによって、一国経済は農業、製造業、貿易の順序で、そして最大の速度で成長するはずだった。また、貿易は諸国民間の友情と連合の絆になるはずだった。
英国の差し迫った問題は、北米植民地問題だった。政府は植民地貿易の利益を他国に奪われないようにするために、植民地に様々な規制を課し、植民地の人々の不満を募らせてしまった。スミスは、北米植民地と本国との関係は、双方の不信と偏見のため、もはや修復不可能なところまできていることを直感的に洞察した。スミスが国富論の締めくくりに示したのは、北米植民地の自発的分離を促す言葉だった。
その言葉の背後には、「道徳感情論」において示された彼の人間観がある。スミスは、人間の中に「賢明さ」と「弱さ」の両方があることを認めた。「賢明さ」とは、自分の心に中にある「利害関心のない「公平な観察者」の判断に従って行動することであり、「弱さ」とは、自分の利益や世評に左右されて行動することであった。「弱さ」に含まれる利己心は個人と社会の繁栄の原動力になり得るが、そのためには、これが「賢明さ」、特に正義によって制御されなければならなかった。
植民地の自発的分離を促す彼の言葉は、英国が「弱さ」にとらわれることをやめ、「賢明さ」に基づいて行動することによって、英国と他の諸国民が秩序と繁栄に向け前進できることを示した。それは、スミスから国富論の読者へのメッセージであった。

3.理論・思想両輪で現実と向き合う

以上のように国富論は、経済理論を示しただけでなく、人間本性に関する考察などを理論に結びつけることによって英国が直面する現実の経済・社会問題に答えようとした書物である。またそれは、経済と社会に関する実証的、理論的な研究だけでなく、それらをめぐる規範的な考察や直感的洞察も含んでいる。
複雑な現実の中で、私たちは、利用可能な経済理論を、何のために、そして、どのように用いたら良いかを判断しなければならない。そのためには、経済だけでなく、倫理、社会、政治、歴史など、さまざまな分野に及ぶ総合的で実践的な思想が求められる。私たちが経済学の古典をひもとくことの最大の意義は、そこから理論を使いこなすための思想、つまり経済思想を学びとることにある。
スミスは光と影が交錯する時代に、光に熱狂することなく、また、闇に絶望することなく、確固たる経済思想に基づいて、冷静に現実に取り組んだ。彼は、到達すべき理想を示しながら、今できることと、そうでないことを見極め、今できることの中に真の希望を見出そうとした。
移りゆく文明社会の人間は、いつの時代も不安定な世相にさらされる運命にあるのかもしれない。熱狂もせず、冷静な姿勢で真の希望を見出そうとした先達の著作は、現代に生きる私たちにとっても、決して朽ちることのない大いなる遺産であるといえよう。
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