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企業トピックス

世界競争、本社は覚睡せよ。藤本隆宏 東京大学教授

・過剰な悲観論は意思決定者の思考鈍らせる
・円高による「空洞化不可避論」は論理性欠く
・生産・開発とも国内外の「二本足経営」重要
 東日本大震災、原発事故、世界経済不安、超円高など、2011年の日本を暗影たる空気が覆った。こうした波状的危機は、一方で人々の連帯を促し、世界を驚かす迅速な産業復旧に結実した。だが異常事態はまた、企業や国の意思決定者に危険な精神状況を生みもする。過剰な悲観論は思考を鈍らせ、心理が論理に勝ち、直言は抑圧され、熟慮より空気が会議を支配する。
 一部マスコミや有識者の言説も雰囲気に流され短絡的になりがちだ。「円高や震災で国内産業の空洞化は不可避」とか「次の天災に備え余分な在庫や生産ラインを持て」といった議論は、論理的にも実証的にも根拠薄弱だ。組織内外の曖昧な空気の相互作用が大きな判断ミスを生む傾向は、過去にもあった。
 今怖いのは次の天災や超円高よりも、事態に圧倒された意思決定者が心理戦に負け、内向きの短期判断に走り結果的に自滅の道を選ぶことだ。敵はわれわれの心中にある。産業界の今年は、この空気による迷いを打破し覚醒の年としなければならない。
 改めて大事なのは世界で競争する意思である。筆者は震災を「世界競争下の高コスト国で発生した初めての広域巨大災害」ととらえる。天災はいつかまた来るが、世界競争は毎日やって来る。震災・原発・円高に惑わされず、企業は現場や供給網の競争力強化を最優先させるべきだ。
 特に覚醒すべきは本部(一部の本社や政府)だ。貿易財の国内現場は生き残る集団意思を持ち、既に覚醒している。
 労働力不足の高度成長期、多くの現場はトヨタ生産方式など「多能工のチームワーク」による統合型祖織能力を確立し、その後、総需要不足と円高の中で「現場の存続」という明確な目標を常に見つつ能力構築してきた。目標と仲間の両方がよく見える組織は調整能力が高く、調整集約的な擦り合わせ型の仕事や製品で競争力を発揮する。日本の貿易財生産現場は、長期円高の中で、驚異的に粘り強かった。
 他方同じチーム志向でも、キヤッチアップなどの大目標を見失った本社組織は、ときに互いに見合って空気を読みすぎ責任が曖昧になり、決定力不足を露呈する。震災で世界は日本の「強い現場・弱い本部」症候群を再認識した。
 競争する意思を確立するには、世界競争に際し、本部と現場が一貫した哲学と論理を
共有する必要がある。筆者も一定の枠組みを持っている。
それは、①顧客へ向かう設計情報の創造・転写の流れで全産業の現場を把握する「ものづくり経営学」②工学系の設計論に基づく「アーキテクチャー(設計思想)論」③リカード理論を現代的に再解釈した「ミクロ視点の貿易論」 (中央大学の塩沢由典教授との研究を含む)--を3本柱とする。これにより、世界競争による各国の比較優位分野への特化、微細な産業内貿易の進展、環境制約による一部製品の複雑化、といった21世紀の諸現象を、よりよく説明したいと考えた。
 現場の組織能力は歴史の産物で、国によって進化に偏りが出る。他方、製品のアーキテクチャーも機能要件や制約条件次第で進化の方向が異なる。両者が適合的なとき、その国はその製品で「設計立地の競争優位」を持つ傾がある。調整力に富む日本の現場やその集合である産業は、擦り合わせ型製品で設計費の競争優位に立ちやすく、その新製品の初期生産は設計国で行われることが多い。
 一方、現場視点でいえば、企業は労働投入係数(物的労働生産性の逆数)を所与として生産立地を決めるわけではない。むしろ現場は、労働生産性を継続的に向上させて賃金率の上昇や国際差を吸収し、自ら生き残ろうとする。
一工程の物的労働生産性は、付加価値作業時間比率(情報転写時間比率)に比例するが、日本の多くの工程で10%台以下で、これを高めれば生産性は2~3倍以上にできる。
 この結果、高コスト国日本には、海外拠点より高生産費 (比較劣位の結果)だが、同時に高生産性(絶対優位)の生産現場が多い。では、これら国内の「高生産費・高生産性工場」は存続できるのか。
 古典派貿易論に従えば比較劣位工場は閉鎖すべきだ。だが多国籍企業の存在、賃金・生産性・為替レートの不確実性、能力構築の不可逆性という3つを前提にすれば、生産の主力は比較優位に従っても
 「絶対優位のある工場は復元可能な形で国内に残せ」が正解だ。現地の賃金昂騰や為替
の変動リスクがある中で、国内の高生産性工場は「戟うマザー工場」として残して海外拠点の生産性向上を支援し、為替リスクも吸収する。生産・開発とも国内外の二本足で立つ経営が求められよう。
 この枠組みは、震災後の部品供給網の再構築、温暖化対策の改定、環太平洋経済連携協定(TPP)などでの交渉戦術、農業振興、地域振興などにも一貫して応用可能だが、今回は空洞化論に絞ろう。
 昨今はやりの「円高による産業空洞化不可避論」は、明確な論理性を欠く。確かに世界競争下の円高は日本の産業構造を変えるが、産業が丸ごとなくなるわけではない。これらは能力構築競争による諸現場の生産性向上の成否に依存するので、そこからは空洞化が不可避な宿命との結論は導かれない。空洞化不可避論に安易に乗った場合、以下の最悪シナリオもあり得る。
 まず経営陣が空洞化論の空気に流され国内の高コスト・高生産性工場の閉鎖と中国移
転を決める。するとマザー工場支援のない現地新工場は中国の賃金高騰(5年で約2倍)に直面する。結局、中国工場を縮小、アジア低賃金国への工場再移転を余儀なくされ体力が消耗する。国内工場を失った日本の設計部隊も徐々に弱体化。数年後に財政破綻から円が急落、国内工場を再び輸出拠点化する選択肢がなく会社全体が窮地に陥る-。
 空洞化の原因は、円高や震災ではなく経営者の心理と空洞化論自体だ。グローバル長期全体最適の経営にとり、国内の高生産性工場はたいてい必須である。東大准教授だった故天野倫文氏も指摘したように、日本企業は空洞化の犠牲者ではなく、むしろ自ら事業構造を転換し産業進化に関わる主体的な存在なのだ。
 チームで動く国内現場の多くは、海外拠点以上の生産性向上がなお可能だ。先日訪れた新潟のF社は、主力製品の祖み立てラインで、この2年で付加価値作業時間比率を10%台から30%台に、労働生産性を2.8倍に高める。従業員は非正規含め400人、うち9割は地元出身者だ。リーマン・ショックで3割減ったがその後は雇用を維持し、生産と輸出を続ける。「子や孫を入れたい工場が目標」というどれが現場の生存意志だ。
 今回の震災では「復旧」という明確な共通目標の下で、多くの企業で本社と現場、現場と現場が良い連携力を発揮した。この経験も生かして本社・現場一体で競争力を強化できるかは、経営者が長期視点を失わず、先の先まで読み、明確な目標をつくり、伝え、現場を鼓舞できるかにかかる。競争は厳しいが、だからこそいいたい。「本社よ覚醒せよ、現場よ連帯せよ」と。

2012.10.23

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