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企業トピックス

「誠実な市場」は日本の強み 柳川範之東大教授

・世界の企業に選ばれる制度設計が重要に
・制度だけでなく国民の意識や慣習も競争力
・真面目さや誠実さでも労働の差別化は可能
経済のグローバル化により、企業や資本が自由に国を選択し始めている。巨大多国籍企業だけの話ではない。中小企業のアジア進出のように、様々な規模の企業が、生産や販売の拠点を世界の地域から選ぶようになった。こうした現象は、世界の構造をかなり大きく変えつつあり、近年の国際貿易論や経済地理学の主要な研究対象でもある。今回は国の競争力の源泉について考えてみよう。
 ポイントは、国家と企業との関係が大きく変化している点である。近代国家において、国は国民に対し独占的な地位を有しており、その地位を利用して徴税を行い、公共財や公共サービスを供給してきた。しかし、企業が国を選ぶようになると、各国は企業や投資家をいかに引き付けるかを考えざるを得なくなる。
 誤解を恐れずにいえば、この傾向が続けば、国家間の競争はやがてショッピングモール間の競争に近づいていくだろう。ショッピングモール間の競争は「二面的市場」、より一般的には「多面的市場」と呼ばれる構造を持っている多面的市場理論は、仏トゥ~ルーズ大学のジャン・シャルル・ロシエ教授らによって分析されてきた概念で、複数の種類の利用者をいかにうまく引き付けるかが競争上、重要となってくる。
 例えばショッピングモールであれば、行動原理の異なる出店企業と消費者の双方を呼び込む必要がある。ショッピングモールのような主体はプラットフオームと呼ばれる。国家も多様な種類の経済主体をいかに引き付けるかを考えるという意味では大きなプラットフオームだといえる。
 このように国家のありようを、生存競争の中で相対的にとらえる考え方は、近年の経済学では一般的になりつつある。例えば米マサチューセッツエ科大学(MIT)のロダン・アセモグル教授は、進化論的なアプローチを用いて、どのような国家が競争を生き残るかを検討している。
 彼は実証分析も行っており、例えば当初は同じような経済状況にあった植民地各国が、採用した制度の違いによって、その後の経済パフォーマンスをどう変化させたかを検証した。この研究では、一部のエリート既得権者が自己の利益を維持拡大できるように規制や参入障壁を操作できる国は、競争上劣勢に立たされた点を強調している。法制度が国の競争力を左右する点は、発展途上国の歴史的段階だけではなく、現代の先進国にも当てはまる。
 今後我が国が政策を考えていく際には、このプラットフォーム間競争という側面を強く意識する必要かおる。例えば税制面で他国と条件をそろえるイコールフッティングは不可欠な要素であろう。現在、改正論議が進んでいる会社法のように、国際的な投資家の利害に直結するような法制度については、いかに世界全体の投資家に魅力的なものを提供するかという視点がもっと重視されるべきだ。さらに規格間競争に官民あげて取り組み、我が国の規格や標準を諸外国でも利用可能にすることも、グローバル企業を相手にする上では重要になる。
 これに加え、自国の優位性を積極的に生かしてプラットフオームとしての魅力を高めていく戦略も必要である。最近、我が国ではアジアからの来訪者が増えているが、中国で製造された洋服が日本の小売店で売られ、それを中国人観光客が購入していくケースがある。実は、この点にこそ、日本の優位性を理解するカギが隠されている。
 このような現象が起きるのは、日本のメーカーや小売店が、洋服を取引する上で便利で安心な環境を提供しているからである。ここでは偽物をつかまされる可能性はほとんどなく、契約上のトラブルも少ない。実は我が国は世界的に見ると極めて「誠実な市場経済」を実現させている。この優位性を自覚し、市場の質を高めていくことが、日本というプラットフオームの価値を高めるカギである。
 やや誤解されている面があるが、「市場経済」は一つのメカニズムではない。どのような仕組み、どのような制度の中にあるかで、その内容は大きく異なる。そして、その仕組みの良しあしの中で大きな役割を果たすのは、実は信頼感やそれを支える社会的慣習である。
 誠実さや信頼性は、競争と矛盾するものではなく、むしろ適切な競争を促進する。取引参加者が安心して取引に参加できるからである。逆に、だまされたりウソをつかれたりする可能性が高いと、絶えずチェックするコストが生じ取引も縮小してしまう。
 従ってAIJ投資顧問による年金消失問題のような詐欺的行為には厳罰を科すルールをつくり再発を防止することが大切である。ただ、誠実な市場経済は法律や制度だけで達成されるものではない。取引参加者の意識や慣習も含めた明示されないルールも大きな役割を果たす。
 信頼の重要性は、前述のアセモグル教授も認識し精力的に研究している。ゲーム理論を用い、同じ経済環境にあっても、信頼性が高く取引がうまくいく社会と、信頼性が低く取引がうまくいかない社会のどちらも実現する可能性があることや、信頼性の高い社会を実現させる上では、そういう社会の実現を強く指し示すりーダーシップが重要な役割を果たすことを示している。
労働者の質も「誠実な市場経済」を構築する上で重要である。企業が国際的に生産立地を考える際には、国の制度だけではなく、それぞれの国の労働者の質や賃金も考慮する。つまり、それぞれの国の労働者は、たとえ移動がなくても、企業の立地選択を通じて他国の労働者との競争にさらされている。
 競争原理が働けば、同じ質の労働者の賃金は国が違っても同一化していく。つまり、発展途上国の労働者と同じ質の労働を供給している場合、たとえ先進国に居住していても、発展途上国と同じ賃金になっていく。これはポール・サミュエルソンが、財の貿易が自由に行われれば、地価など生産要素の価格は各国で均等化すると主張した要素価格均等化定理と似た構造だ。多くの先進国で所得分布が二極化して、中間の所得階層が減少しているひとつの理由はこの点にある。
 したがって、賃金水準を高める上で必要なのは、労働の質を高めて発展途上国の労働と差別化を図ることである。それには今までよりも技能や向上が必要なことは言うまでもない。
 しかし、労働の質を構成するのは、実は技能や知識の水準だけではない。信頼性の高い労働の供給も、労働の質の高さにつながる。全てを監視しなくても真面目に働く信頼性や、逐一指示しなくても行われる顧客サービスなども、質の高い労働であり競争力を持つ。この点は我が国に優位性があり、日本というプラットフオームの質を高める上でも大きなプラスだ。今後は、誠実さや信頼感という優位性をもっと認識し、それを伸ばしていくことが重要になる。

2012.06.25

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